東京地方裁判所 平成2年(ワ)2000号 判決 1991年10月11日
原告
贄田春江
ほか一名
被告
有限会社大陸運輸
ほか二名
主文
一 被告らは、各自、原告贄田春江に対し一九九〇万三二三七円及び原告贄田真理子に対し一八七〇万三二三七円並びに右各金員に対する昭和六三年一一月一九日から各支払い済みまで年五分の割合による金員を各支払え。
二 原告らのその余の請求を棄却する。
三 訴訟費用はこれを一〇分し、その三を原告らの負担とし、その余を被告らの負担とする。
四 この判決は原告ら勝訴部分に限り仮に執行することができる。
事実
第一当事者の求めた裁判
一 請求の趣旨
1 被告らは、各自、原告贄田春江に対し二九二五万四四九五円及び原告贄田真理子に対し二七三六万〇三六五円並びに右各金員に対する昭和六三年一一月一九日から支払い済みまで年五分の割合による金員を各支払え。
2 訴訟費用は被告らの負担とする。
3 仮執行宣言
二 請求の趣旨に対する答弁
1 原告らの請求を棄却する。
2 訴訟費用は原告らの負担とする。
第二請求の原因
一 本件事故の発生
1 発生日時 昭和六三年一一月一九日午前六時四五分ころ
2 発生場所 東京都板橋区志村三丁目一番一五号先交差点(以下「本件交差点」という。)
3 加害車両 被告小川潔(以下「被告小川」という。)運転の被告有限会社大陸運輸(以下「被告会社」という。)が所有する大型貨物自動車(足立一一く二五六九、以下「被告車」という。)
4 事故態様 被告小川は、被告車を運転して巣鴨方面から戸田橋方面へ向かい走行中、本件交差点を直進するに際し、対面信号機が黄色信号を表示しているのを同交差点入り口に設けられた停止線の手前六一・八メートルの地点で認めたのに、そのまま直進して、すでに対面信号機が赤色信号を表示していた同交差点に進入し、折から、贄田繁(以下「亡繁」という。)が原動機付自転車(以下「原告車」という。)に乗り、赤羽方面から相生町方面へ本件交差点を青色信号に従い走行中であることに気付かず、そのまま直進して被告車に亡繁を巻き込み轢過した。
5 事故結果 亡繁は、脳腔内損傷を負い、死亡した。
二 責任原因
1 被告会社
被告会社は、被告車を所有し、自己のために運行の用に供していた者であるから、自賠法三条により原告らが本件事故で被つた損害を賠償すべき責任がある。
2 被告小川
被告小川は、本件交差点の対面信号機が黄色信号を表示しているのを同交差点入り口に設けられた停止線手前六一・八メートルの地点で認めたのであるから、これに従い、右停止位置で停止すべき注意義務があるのに、これを怠り、右信号を無視して時速八〇キロメートルで対面信号機が赤色信号を表示していた同交差点に進入した過失により、本件事故を惹起させたから、民法七〇九条により原告らが本件事故で被つた損害を賠償すべき責任がある。
3 被告山田和郎(以下「被告山田」という。)
被告山田は、本件事故当時、被告会社の代表者で、被告会社に代わつてその事業を監督する者であるから、民法七一五条により原告らが本件事故で被つた損害を賠償すべき責任がある。
三 損害
1 逸失利益 五一二二万三〇三〇円
亡繁は、昭和二七年一二月二〇日生まれで、本件事故当時三五歳の健康な男子であり、本件事故で死亡しなければ六七歳までの三二年間稼働可能であつたから、昭和六三年賃金センサス第一巻第一表企業規模計・産業計・男子労働者学歴計の年齢別平均給与額である年額四一九万〇四〇〇円を基礎に、生活費として三五パーセントを控除し、新ホフマン方式、係数一八・八〇六で、亡繁の逸失利益を計算すると五一二二万三〇三〇円となる。
2 慰謝料 二二〇〇万円
亡繁は、妻の原告春江と子供の原告真理子と、幸福な日々を過ごしていたものであり、青色信号に従い通行していたにもかかわらず死亡した亡繁の無念さ、また、本件事故で一家の支柱を瞬時に失つた原告らの受けた精神的苦痛は大きく、慰謝料としては合計二二〇〇万円が相当である。
3 相続
原告らは、亡繁の妻及び子供であり、亡繁の死亡により、同人の損害賠償請求権を法定相続分に従い各二分の一の割合で相続した。
4 葬儀費用 一八九万四一三〇円
原告春江は、亡繁の葬儀を行い、葬儀費用一八九万四一三〇円を支出した。
四 填補
原告らは、自賠責保険から二五〇〇万二三〇〇円の支払いを受け、内金三五〇万円を亡繁の父母に対する慰謝料に充当し、残り二一五〇万二三〇〇円を二分の一ずつ原告ら各自の損害に充当した。
五 弁護士費用 三〇〇万円
原告らは、原告ら訴訟代理人に本件訴訟を委任し、その費用として三〇〇万円を各二分の一ずつ支払う旨約した。
六 よつて、原告らは、被告ら各自に対し、本件事故による損害賠償として、原告春江において二九二五万四四九五円及び原告真理子において二七三六万〇三六五円並びに右各金員に対する本件事故日である昭和六三年一一月一九日から支払い済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払いを各求める。
第三請求の原因に対する答弁
被告会社及び被告山田
一 請求の原因一項については、同項の4を除き、認める。
二 同二項については、被告車が被告会社の所有であること、被告山田が被告会社の代表者であつたことは認め、その余は否認し、争う。
三 同三項については、原告春江が亡繁の妻であり、原告真理子が子供であることは認め、その余は知らない。
四 同四項は知らない。
五 同五項は知らない。
六 同六項は争う。
被告小川
一 請求の原因一項については、同項の4を除き、認める。
二 同二項については、被告小川に、賠償義務があるとする点は争う。
三 同三項については、逸失利益は否認し、慰謝料は争い、相続関係及び葬儀費用は知らない。
四 同四項については、自賠責保険から二五〇〇万二三〇〇円が支払われたことは認める。
五 同五項は知らない。
六 同六項は争う。
第四抗弁
被告小川が本件交差点に進入した時点においては、被告小川の対面信号は未だ黄色の表示であり、亡繁は対面信号が赤から青に変わる直前に急加速で本件交差点に進入し、その際、交差道路の進行車両の存否に注意を払わなかつた過失があるから過失相殺すべきである。
第五証拠
本件記録中証拠関係目録記載のとおりである。
理由
一 請求の原因一項本件事故の発生については、事故態様の点を除き、当事者間に争いはないところ、成立に争いのない甲第一号証の一ないし二七、甲第三号証、被告小川潔本人尋問の結果、被告山田和郎本人尋問の結果によれば、次の事実が認められる。
1 本件事故現場である本件交差点は、巣鴨方面(南東)と戸田橋方面(北西)とを結ぶ道路(中山道、以下「本件道路」という。)と、赤羽方面と相生町方面とを結ぶ道路(環状八号線)が交差し、信号機による交通整理の行われている交差点である。
本件道路は、歩車道の区別のある直線道路で、巣鴨方面から戸田橋方面へ向けて三パーセントの下り坂で、道路幅員は約二四・六メートル、車道の幅員は約一六・六メートル、車道両側に幅員は各約四メートルの歩道が設けられ、歩道と車道の境には地上高約一メートルの植込みがあり、その植込みの中間には地上高約一〇メートルのプラタナスがある。
本件道路の交通規制は、最高速度五〇キロメートル毎時、駐車禁止、本件道路の上り・下りから環状八号線への右折は午前七時から午後八時の間禁止とされている。
2 被告小川は、一般区域貨物自動車運送業等を事業目的とする被告会社の従業員で、同会社の業務として被告車を運転し、本件道路を時速約八〇キロメートルで巣鴨方面から戸田橋方面へ走行中、本件交差点を直進するにあたり、対面する信号機の灯火が黄色信号を表示しているのを、同交差点入り口に設けられた停止線の手前約六一・八メートルの地点で認めたが、停止することによる荷崩れを心配したことなどもあつて、速度を減じることなく時速約八〇キロメートルのまま進行して、対面する信号機の信号が赤色信号の表示に変わつていた本件交差点に進入し、折から、右方交差道路(赤羽方面)より青色信号に従つて進行してきた亡繁の運転する原告車を右前方約二四メートルの地点に認め、左転把し、急制動をかけたが及ばず、原告車左側部に被告車前部を衝突させて亡繁を路上に転倒させたうえ、被告車底部に亡繁を巻き込んで引きずり、よって、亡繁に胸腔内損傷等の傷害を負わせ、昭和六三年一一月一九日午前七時一〇分ころ、小豆沢病院において亡繁を右傷害により死亡させた。
以上の事実によれば、被告小川は、本件交差点を直進するにあたり、同所付近は最高速度が五〇キロメートル毎時と指定されていたから、信号機の灯火の変化に即応できるよう適宜速度を調整して進行すべき注意義務があるのに、これを怠り、漫然時速約八〇キロメートルで進行した過失により、また、本件交差点入り口に設けられた停止線手前約六一・八メートルの地点で対面する信号機の灯火が黄色信号を表示していたから、停止位置をこえて進行してはならない義務があるから、右停止線で停止すべき注意義務があるのに、これを怠り、停止することなく本件交差点に進入した過失により、本件事故を惹起させたものと認められるから、被告小川に過失があり、被告会社が被告車を所有し、自己のために運行の用に供している者であることは当事者間に争いはないので、被告小川は民法七〇九条、被告会社は自賠法三条にもとづき、原告らが本件事故で被つた損害を賠償すべき責任がある。
また、被告山田は、甲第三号証、被告小川潔本人尋問の結果、被告山田和郎本人尋問の結果、弁論の全趣旨によれば、被告会社の経営方針等を決定する代表取締役であり、被告小川の選任・監督をなしうる地位にあり、実質的に被告小川の選任をなし、同被告の業務の内容等も定めていたことが認められ、被告会社の従業員は七名で、被告山田において把握できる人数であつて、訴外松本雄一が被告小川に対する配車等の指示をしていたとしても、同訴外人は被告会社の役員でもなく、独立した代理監督者に値しないものであり、また、被告山田が配車等の指示をしたこともあり、被告会社の本店所在地は被告山田の住所地と同一であり、同会社の役員は被告山田の親族等で、資本金五〇〇万円は同被告が出資し、同会社の負債の保証も多額にしていることが認められるところであるから、監督支配の現実性・具体性は、ある程度一般的・定型的に認められれば足り、たまたま本件事故当時現実の監督をしていなかつたということから直ちに否定しなければならないものではないので、被告会社の規模が小さく、従業員も少なく、同会社の日常具体的な業務の指揮監督を行つていたこと、同会社は被告山田のいわゆる個人企業と言えることなどからすれば、被告山田は、被告会社の代理監督者にあたるものであり、民法七一五条二項により原告らが本件事故で被つた損害を賠償すべき責任がある。
二 損害
1 逸失利益 三九四〇万六四七四円
成立に争いのない甲第二号証、弁論の全趣旨によれば、亡繁は、本件事故当時、三五歳の健康な男子で、昭和六二年一一月から昭和六三年一〇月までの本件事故前一年間に年収入額四一五万六〇一二円を得ていたことが認められ、本件事故で死亡することがなければ、六七歳までの三二年間稼働可能で、その間少なくとも年収額四一五万六〇一二円を得ることができるものと認められるところ、本件事故でこれを失つたから、その逸失利益の現価を、右四一五万六〇一二円を基礎に、生活費控除率を四割とし、ライプニツツ方式、係数一五・八〇三で算定すると三九四〇万六四七四円となる。
2 慰謝料 二二〇〇万円
亡繁の家族関係、年齢、性別、経歴、収入、その他諸事情を考慮し、慰謝料は二二〇〇万円が相当と認められる。
3 相続
甲第一号証の一五、弁論の全趣旨によれば、原告春江は亡繁の妻で、原告真理子は長女であり、亡繁の損害賠償請求権を法定相続分に従い各二分の一の割合で相続したことが認められる。
相続後損害額合計
原告春江 三〇七〇万三二三七円
原告真理子 三〇七〇万三二三七円
4 葬儀費用
弁論の全趣旨によれば、原告春江は、亡繁の葬儀を営み、多額の費用を支出したことが認められるところ、本件事故と相当因果関係のある葬儀費用は一二〇万円が相当と認められる。
5 以上損害額合計
原告春江 三一九〇万三二三七円
原告真理子 三〇七〇万三二三七円
三 填補 二五〇〇万円
弁論の全趣旨によれば、原告らは、自賠責保険金から二五〇〇万二三〇〇円の支払いを受けているところ、右支払いの内金二五〇〇万円は、慰謝料等として、原告らに対し、原告らの相続分に従つて支払われたものと認められるから、各一二五〇万円の支払いを受けていることが認められる。なお、内金二三〇〇円は、原告らが本件訴訟で請求していない本件事故による損害(治療関係費等)に充てられたものと認められるので、前記損害額からは控除しない。
填補額控除後損害額合計
原告春江 一九四〇万三二三七円
原告真理子 一八二〇万三二三七円
四 弁護士費用 一〇〇万円
弁論の全趣旨によれば、原告らは、原告ら訴訟代理人に本件訴訟を委任し、弁護士費用を支払う旨約したことが認められるところ、本件訴訟の審理の経緯、認容額等諸事情を考慮し、本件事故と相当因果関係のある弁護士費用は一〇〇万円(原告ら各五〇万円)が相当と認められる。
五 よつて、原告春江の被告らに対する請求は、一九九〇万三二三七円及びこれに対する本件事故日である昭和六三年一一月一九日から支払い済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払いを求める限度で理由があるから、この限度で認容し、その余は理由がないので棄却することとし、原告真理子の被告らに対する請求は、一八七〇万三二三七円及びこれに対する前同様昭和六三年一一月一九日から支払い済みまで年五分の割合による遅延損害金の支払いを求める限度で理由があるから、この限度で認容し、その余は理由がないので棄却することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条、九二条、九三条を、仮執行宣言につき同法一九六条を、それぞれ適用して主文のとおり判決する。
(裁判官 原田卓)